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Responsible Child (TV) 子供の責任能力

イギリス映画 (2019)

映画の最後に表示されるように、イングランドとウェールズの刑事責任の最低年齢が10歳であるという “行き過ぎた厳しさ” に対し、1995年、国連の子どもの権利委員会が、子どもの権利に関する義務に抵触すると述べたにも関わらず、何らの改善もされずに四半世紀もの間放置されてきたことに対し、BBCが抗議の意を込めて作成したTV映画。その元となった事件は、2013年に、14歳のジェローム・エリス(右の写真)と23歳のジョシュア・エリスが、虐待的な54歳の継父を睡眠中に殺したもので、65ヶ所の刺し傷、頭がほぼ切断状態になっていたことなど、この映画と酷似している(14歳→12歳。65ヶ所→70ヶ所)。ジェロームは、“制御の欠如による故殺罪” で6年、ジョシュアは殺人罪で14年の刑を受けた。この映画の主人公、12歳のレイ(ラファエル)は、頭が良くて、おとなしく、優しい子。しかし、母は、レイの父と離婚し、今はスコットというアル中男と暮らし、2人の幼児がいる。レイの兄のネイサンは、母の家の屋根裏部屋に住まわせてもらっているのだが、レイは、未成年のため、親権が認められた父の家に住んでいる。しかし、レイは、実父との生活が我慢できなくなり、家出をして母の家にやってくる〔恐らく、離婚の時に、家は母のものとなった。その時、18歳を超えていた兄は、親権の対象とならなかったので、そのまま家に住み続けた〕。しかし、レイにとって義父となるスコットは、実子以外には愛情のかけらも示さず、ネイサンの存在も邪魔でしかなかったので、レイを受け入れることを拒む。この非情な義父の姿勢をネイサンが批判したことで、義父はネイサンに対して斧で攻撃し、殺人未遂で訴えられる。そして、義父があっさりと無罪放免されたことで、ネイサンは、不信感と恐怖心からうつ病になり、レイを巻き込んで義父を惨殺する。映画のクライマックスは裁判のシーンで、12歳の少年が陪審員の前で検事から非情な尋問を受ける場面には、こんなことがあっていいのかと真剣に考えさせられる。IMDbは7.2。どの映画評も好意的だ。

現在と過去が混在した映画なので、箇条書きで簡単に内容を示す。現在は、過去はで示す(何れも時系列だが、 過去は一部で順番が入れ替わる)。
 兄と一緒に義父を殺した血まみれのレイが警察に連れて来られ、収監される。そこに、弁護士の通称ピートが現われ、弁護を担当すると話す。混乱状態のレイは無反応に近い
 親権を持っている実父の家に住むことに耐え難くなったレイが、母の家で暮らしたくてやって来る。母が再婚したスコットという義父は、1泊しか許さないと言い、兄と口論になり、アル中で暴力的な義父は、兄に対し斧を振り回す。兄は、警察を呼び、義父は殺人未遂で連行される
 ピートは、法廷弁護士として、こうした事件に熟練したケリーに声をかけ、彼女は興味を持ち受諾する。そして、少年犯罪チームと児童サービスからの2人を加え、4人の弁護団が結成される
 夫の逮捕を受け、すぐに担当の児童サービスの女性がレイの母を訪れるが、ずさんなチェックしかしない。このシーンで、レイは兄ネイサンが屋根裏部屋で暮らしていることと、レイが天体に関心があることが分かる
 本審前の予審の日、レイには “インテンシブな里親委託” が、ネイサンには拘留が宣告される
 レイは、何もしない母の代わりに、異父妹弟の面倒をみているので、学校に遅刻する。担任は、レイのことを心配し、学校の特別助成金で服を買うよう勧める
 レイは、精神科医の診断を受ける。レイが宇宙に詳しいことが分かったことで、好印象を与える。その後の質問で、レイにはPTSDの症状があることも分かる
 逮捕からどのくらい日が経ったかは不明だが   〔数ヶ月単位?〕、父が無罪放免される。これは、明らかに警察の失態。レイは落胆するが、ネイサンは恐怖に慄き、心のバランスが崩れ始める
 ケリーはピートと弁護方針を話し合い、“制御の欠如(loss of control)による故殺” を主張することに決める。そして、レイに対しては、殺人は、“コントロールできなくなった(loss of control)” せいだと主張するよう説得する
 レイは、義父が占有している小屋の中に、斧が隠してあるのを見つけ、危機感をつのらせる
 公判が始まり、裁判長が、最初に実名報道を認める判断を下す。そして、陪審員12名が席に着き、検事の冒頭陳述が始まる
 検事の言葉を受けて、レイは、学校で生まれて初めて暴力を振るい、停学になった時のことを思い出す
 検察側は、陪審員に 殺人時の残虐な写真類を提示するが、1人は気分が悪くなって席を立つ〔そのくらい残虐な殺し方〕
 殺人実行の夜、兄はうつ状態がひどく 半ば放心状態。義父は母に暴力を振るい、兄を脅す発言をする
 検事による、精神科医の証人尋問。その後の、ケリーによる弁護側の証人尋問では、レイに有利な証言をしてくれる
 精神科医の登場を受けて、レイは、彼に打ち明けたテントウムシ殺しの罪について思い出す
 検事による、児童サービスの女性の証人尋問。その後の、ケリーによる弁護側の証人尋問で、この女性の無能さが露呈される
 検事による、レイの担任の女性教師の証人尋問。その後の、ケリーによる弁護側の証人尋問で、女性教師はケリーを褒め、かつ、可哀想だと心情を吐露する
 弁護側の要請を蹴り、ネイサンの弁護人は証人尋問を拒否する。ケリーは、検事によるレイの証人尋問を前に、“コントロールできなくなった” と証言するように念を押す
 検事による、レイの証人尋問が始まる。殺人の夜の、兄の様子を聞かれ…
 レイは、兄の異常な様子を思い出す
 検事に、レイの部屋での2人の話し合いの内容を訊かれ…
 レイは、2人でキッチンに行き、ナイフを手に取ったことを思い出す
 そして、それを検事に話す。検事に攻撃の主導者を訊かれ…
 レイは、2人でナイフを持ち、義父の前に立ったことを思い出す
 レイは、義父を襲ったことは認めるが、詳細を訊かれ、“コントロールできなくなった” と答える
 レイは、殺人の後、2人で近くの教会まで行ったことを思い出す
 検事による最終陳述。そのあと、ケリーが弁護側の最終陳述で、“責任” と “制御の欠如” について、素晴らしい陳述を行う
 陪審員の評議の間、レイは、自分の写真が新聞の一面に載っているのを見て悲しくなる
 陪審員の評決は、ネイサンに対しては殺人罪で有罪、レイに対しては殺人罪では無罪、“制御の欠如による故殺罪” では有罪となる
 レイは、保護訓練センターに送致される
 恐らく、翌日には、大好きな宇宙の絵を描いて、部屋に貼る
 レイは、義父が珍しく親切だった日の夢を見る(“並行宇宙” での出来事?)
 目を覚ましたレイは、義父をナイフでめった刺しにした時のことを思い出し…
 自分のした行為を恥じて泣き叫ぶ。レイに理解のある指導員が宥める
 ある日、レイは、「僕、あんなことをした自分が許せない」と言う。指導員は、「その子は、別の宇宙にいるんだ」と慰める(“並行宇宙”)

主役のレイを演じるのは、映画の設定と同じ12歳のビリー・バラット(Billy Barratt)。アメリカ合衆国外で製作・放送された優れたテレビ番組を表彰する「国際エミー賞」で、大人3人を含む4人の中から主演男優賞に選ばれた演技が圧倒的。映画の8割までは、PTSDの無表情・無感動な少年を巧く演じ、記憶が戻るにつれて激しい感情に襲われる場面も見事。ビリーは、映画『To Dream』(2016)、TV-mini 『The White Princess(ホワイト・プリンセス/エリザベス・オブ・ヨーク物語)』(2017)、TV映画『Sharknado 5: Global Swarming(シャークネード5/ワールド・タイフーン)』(2017)、映画『Mary Poppins Returns(メリー・ポピンズ リターンズ)』(2018)、映画『Blinded by the Light(カセットテープ・ダイアリーズ)』(2019)、TV-series 『Invasion(インベージョン)』(2021)など、日本でも知られた多くの映画、TVに出演している。下に、WEB上で見つけた2つ(左が「シャークネード5」、右が「インベージョン」)を示す。
   

あらすじ

映画の冒頭、「1963年の児童法に基づき、イングランドとウェールズでは10歳以上の子供が成人として殺人の罪で裁判にかけられる」と表示される〔日本の場合、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合では、16歳以上の少年は、原則として、家庭裁判所から検察官に事件送致され、一定の例外を除いて起訴される。その場合、有罪となっても、行く先は少年刑務所。イギリスの場合、6歳も年下でも例外なく陪審員裁判にかけられ、有罪の場合は成人向けの刑務所に何十年と入れられる〕。場面は、夜の警察署。1人の少年が2人の警官に付き添われて廊下を歩いている。着ているシャツは血で真っ赤に染まり、その血は顔にも飛んでいる(1枚目の写真)。この映像に、婦警による簡単な質問が重なる。「ラファエル、何歳?」。「12歳」。「なぜ逮捕されたか理解してる?」。「はい、してます」。「水曜日の早朝、男性1人が殺害される事件が発生。当時、現場には4人がいたことが知られており、君は そのうちの1人。だから、君は今夜この警察署に連行され、殺人容疑で逮捕された。理解してる?」。「はい」。目の検査、指先に付着したままの血液の採取、血液検査、身長測定、写真撮影がされ(2枚目の写真)、全身淡い緑色の囚人服に着替えさせられる〔その前に、全身の血が洗い流されたらしく、髪の毛が濡れている〕。そして、「然るべき大人が君を支援するため、こちらに向かっている。いい?」と告げられる。「はい」(3枚目の写真)。少年は、青いビニールを敷いた台(ベッド?)だけが置いてあるタイル張りの独房に入れられる。そして、タイトルが表示される。写真の左端の白色の縦線は 「現在」を示す。
  
  
  

翌朝、男性が廊下を歩きながら、婦警と話している。「ええ、でも大人の独房でずっと9時間も? 違法ですよ」。「入れる場所が どこに?」。「地元当局と連絡を取らなかったのですか?」。「夜に来たんですよ」。「法律は、各署に子供向きの独房の設置を規定しています」。「殺人で逮捕されたのですよ、不登校でなく」。婦警が、厳重なドアの鍵を開けると(1枚目の写真)、中には、夜中に着いたままの格好で少年が座っている(2枚目の写真)。男性は1人で中に入って行くと、「私は、ピート。 君の弁護士だよ」と自己紹介する。「冴えない顔だと分かってるが、座っていいかい?」。そう、気さくに話しかけると、少年の横に座る。「レイと呼んでもいいかな?」。レイ〔ラファエルの愛称〕は、凍り付いたように身動き一つしない。ピートは、「食べた?」と訊く。レイがかすかに肩をすくめる。ピートは、さっそく、持って来たアッタシュケースを開け、「さて、何があるか見てみよう…」と言いながら、サンドイッチの入った袋を渡す。これには、お腹が空いていたレイも、生き返ったようにかぶり付く。そこに、ドアが開き、年配の男が入ってくる。ピートは、さっそく 「クライアントと個人的な相談中」と言って男を追い出す。そして、レイには 「カウンセラーだ。信用するな。法律に縛られてるから、君が何か言って、それを彼が聞くと、法廷で君に対して使われる可能性がある」と注意する(2枚目の写真)。「何も言わない。 私を除いて。いいね?」。そう言いながら、レイと同じものに、かぶり付く。「供述の準備をしないと。彼らの質問に対し、言っていいのは 『ノー・コメント』だけ。いいね?」。レイが僅かに頷くと、「それでいい」。ピートは、独房から出ると、携帯をかける。出たのは、中年の女性で、問答無用で電話を切ろうとするが、ピートはまず電話をかけて来たのが自分だと分からせた上で、いきなり 「殺人」と言う。「あなたらしいわね、ピート」。「子供」。「殺されたの?」。「いいや、殺したんだ。法廷弁護士が必要だ。説得成功かい?」。この事件に、女性弁護士は急に乗り気になる。「続けて」。「あなたは、少年が無実だと思うかもしれない。だが、殺人自体は非常に残忍だ。冗談抜きで、私はこんなの見たことがない。今は戻らなきゃいけないけど、後で電話する。いいよね?」。「いいわ」。これで、決まり。その後、ピートも交えて、署内での供述の一場面が、防犯カメラの映像で紹介される。「君は、お父さんの飲酒と癇癪に耐えられなくなったので、昨年6月15日、放課後に、鞄を詰めて家を出て、お母さんとお兄さんと一緒に暮らそうとしたんだね?」。レイは過去に思いを馳せ、映像が切り替わる。
  
  
  

場面は、先ほどの最後の供述画面にあった “昨年の6月15日”。 放課後に、鞄を詰めて家を出たレイは、バスに乗り 母と兄が暮らす家に向かう。そして、バスを降りると、郊外の住宅街の歩道を歩く(1枚目の写真)〔イギリスの労働者階級に多い 連続長屋式住宅の地区ではないので、それほど金銭的に困っているとは思えない〕〔レイが左手に下げているポリ袋の中に、大事にしているポスターが筒状にして入れてある〕。レイが一軒の家のドアをノックすると、ドアを開けたのは兄。思わず、レイの顔が綻ぶ(2枚目の写真)。そして、2人は仲良く抱き着く。兄が、荷物の多さに 「どうした?」と訊くと、レイは 「もう 父さんと一緒には いられない」と言う。すると、中から、「こんな時間に誰だ?」という甲高い声が聞こえてくる。兄は 「彼のことは心配するな。いいな?」と言う。レイがごちゃごちゃした居間に入って行くと、離婚時にレイの親権を失った母が微笑む。甲高い声の男が、「立ち寄るには遅過ぎないか?」と文句を付ける。兄が 「彼、泊りに来たんだ」とサポートする。「いいだろ、スコット?」〔スコットは、母がレイの父と離婚した後に再婚したロクデナシ。2人の間には、子供が2人生まれ、スコットは自分の子供だけを可愛がり、義息は邪魔なだけ〕〔兄は成人なので親権とは無関係。だから、母の家に残れた〕。「今夜だな? ソファでいいな?」。兄:「いや… もう少し長くなるかも」。「部屋がないんだ、レイ。悪いな。今夜は泊まってけ。だが、明日は親爺さんのトコに戻れよ」。そう言われて、レイと兄は顔を見合わせる(3枚目の写真)。兄は 「彼は、もう戻れない」と明言し、「ママ」と、母に救いを求める。スコットは、さっそく 「彼女に何を求めてる?」と釘を刺す。兄:「ここは、彼女の家だ」。ロクデナシでアル中のスコットにとっては、それが不満で、「請求書には俺の名前」と、生活費を払っていることを主張した上で、「俺たちが食うだけでやっとなのに、屑野郎に部屋までくれてやってるんだぞ」と、義息〔兄のこと〕を “屑野郎” 呼ばわりする。レイは 「兄さんをそんな風に呼ばないで」と反撥する。兄が 「ここは、ママの家で、レイには行くトコがないんだ」と正論を言うと、ロクデナシは 「そいつと一緒に、お前の親爺んちに帰れ!」と怒鳴る(4枚目の写真)。兄は 「あんたをママと一緒に放っておけるか」と、母に対するロクデナシの暴力への心配を口にする。「いま何て言った?」。それに対し、今まで実の息子達を全くカバーしようとしなかった母が、「ネイサン〔兄の名〕は 何も言わなかった」と、事態を収めようとする。写真の左端の山吹色の縦線は 「過去」を示す。
  
  
  
  

そのあと、キッチンで、ロクデナシが母に 「俺の家だ。俺が丸一日働いた後で、奴に あんな勝手を言わせやがって!」と言ったのを聞いた兄は、キッチンに行き、今度は、ロクデナシと兄との口論が始まる。「俺に対して、二度とあんな口をきくな!!」。「弟を助けようとしただけだ。住む場所がないんだぞ!」。「お前も、ママさんに倣って、俺に構うな!」。「俺がなぜここにいると思う。あんたって奴を 知ってるからさ」。この言葉に ロクデナシが切れて、フライパンを床に叩き付ける。そして、「貴様を殺してやる!!」と兄と取っ組み合いになる。心配になったレイがドアから見ていると(1枚目の写真)、ロクデナシが工具箱の上に置いてあった斧を取り上げると、それを使って兄に向かって何度も襲いかかる(2枚目の写真)。兄は必死に防戦し、斧が床に落ちる。レイは、それを拾い上げると、家から走り出る。次のシーンでは、警察が呼ばれ、兄が、警察が用意した紙に署名を求められる(3枚目の写真)〔兄を斧で殺そうとした容疑(殺人未遂)〕。ロクデナシは、パトカーに乗せられて連行されて行った。
  
  
  

ピートの依頼でレイの法廷弁護士を引き受けた女性の部屋に、1人の黒人女性が入って来て、デスクの上に散乱する写真を見て、「見ていいかしら?」と手に取る。そこに映っているのは、惨殺されたスコットの死体や、レイの血まみれの手の写真(1枚目の写真)。一方、廊下では、ピートがレイに 「被告側の法廷弁護人となるミス・スティーヴンスと、残りのメンバーを紹介するからね」と話している(2枚目の写真)。そして、ドアを開けると、中には、1人増えて3人のスタッフがいた。ピート:「ケリー、どうだい?」。ケリー:「今日は、ピート」。「これが、レイ」。ケリーは立ち上がって、「今日は、レイ」と笑顔で言うが、レイは全くの無表情(3枚目の写真)。「ケリーよ。私は、裁判であなたを弁護する。私が好きじゃなかったり、信用できないなら、ピートが他の人を見つけてくれるわ」。レイは 相変わらず無口だが、僅かに視線が下を向いたので、ケリーは 「いいのね」と言い、同室の2人を紹介する。まず、男性。「これが、少年犯罪チームのガーリィ」〔少年犯罪チームは、裁判所が処分を決定するにあたり、拘禁を避けるように裁判所に意見を出すことができる〕「彼には、判決まで、あなたの事件の管理責任があるの」。次が、先ほどの黒人女性。「グレイス。児童サービス(Children's Services)から」。ピートはレイを座らせながら、「彼女は、少し感情的だけど、最後まで君を守ってくれるからな」と言った後で、「いいかい、予備審問の準備をしないと」と言う。
  
  
  

ここで、映画は過去に戻る。母のところには、児童サービスの別の女性が訪れている〔実は、この女性は、ロクデナシのスコットに次ぐ、ロクデナシNo.2の役立たず〕。「警察はスコットの容疑を調べているので、彼はしばらく拘留されるでしょう。その間、あなたと 子供たちだけになります。過去に 親権で問題があったことは承知しています」と話すが、この女の頭にあるのは、母親とスコットの間にできた2人の子供のことだけで、この母に親権のないレイのことなど何も考えていない。レイは、階段の手すりの後ろから、その話を盗み聞いている(1枚目の写真)〔レイにとって、彼女がどうする気なのかが最大の関心事〕。母は、「お願い、また 子供を取り上げないで」と言う。「ヴェロニカ、それはずっと前の話〔レイのこと〕で、その後は、とても良くやってる。そうよね?」〔レイの兄が義父に殺されかけたというのに、「とても良くやってる」などと、よく言えたものだ〕「スコットが 子供たちの面倒をみるため ここにいないので、万事順調かどうか確かめたいだけ。それが査定の唯一の目的よ」〔何度も書くが、レイのことなど眼中に全くない彼女の存在が、スコットをのさばらせ、兄をサイコパスにし、レイを少年殺人者にしたと言っても過言ではない〕。そのあと、レイは兄の所に行く。話の内容にあまり意味はないので、ここでは、部屋の全景が分かる “レイが話し終えて帰る時” の場面を3枚目に紹介する。レイの兄が暮らしている部屋は、鉄梯子でしか登れない真っ暗な屋根裏部屋。これでは、性格が暗くなっても不思議はない。4枚目の写真は、レイが暮らすことになった場所〔それがどういう所か 説明がないので全く分からない〕に、前の家から持って来た大事なポスターを貼っているところ。このことから、レイは天体に興味があると分かる。
  
  
  
  

そして、裁判が開かれる最初の日。レイは、ガラス越しに初めて兄と顔を合わす。レイは 「大丈夫?」と訊くが(1枚目の写真)、兄は、指を唇に当てて 黙っているよう指示する。「起立〔Court rise〕」の命令が響き、全員が立ち上がり、裁判官が席に着く。全員が着席するとすぐ、被告の2人に 「立って下さい」と声がかかる。裁判官は、まず レイに対して発言する。「ラファエル・マッカラン。1人の男に対する残忍な殺人に対する告発で、今日、あなたが、ここに立っているのを見ることが 私にはどれほど悲しいか、言葉にできないほどです。こうした点を慎重に勘案した結果、裁判が始まるまで、あなたに “Remand Fostering” を命じます」(2枚目の写真)。この “Remand Fostering” に見合った訳語はない。『人文学報』に掲載された報告(2020.3)、「英国の Remand Fostering からみる児童福祉と少年司法の連携可能性」(安藤 藍)によれば、“Remand Fostering” とは、罪を犯した子供の一部を対象に、裁判所の審理や判決を待つ短期間、インテンシブな里親委託が提供されるイギリス独自の制度だとか。「理解していますか?」。「ええ」。近くにいたケリーは、小声で 「はい、裁判長〔your honour〕」と教える。レイは、素直にそれに応じる。次が兄の番。「ナサニエル・マッカラン。あなたは裁判まで拘留されます」〔レイと違い、厳しい拘置所に閉じ込められる〕。こうして、1回目の裁判は終了する。
  
  

映画は過去に。レイは、母とスコットの間に生まれた幼女が幼稚園に行く準備の世話をした後、2階に向かって、「じゃあね、ママ」と呼びかけるが(1枚目の写真)、この母親は返事すらしない。兄は、キッチンで黙々とシリアルを食べているだけで、レイの手助けを全くしない。レイが、幼稚園に送り届けている間に、学校は始まっている。レイのクラスの女生徒が読み上げているのは、『蠅の王』の5章。そこに、レイが入って来て、「遅れてごめんなさい」と言って着席する。「もう、何度目かしら」〔幼稚園に何度も送っている→スコットの逮捕から、ある程度時間が経過し ているらしい〕。生徒が笑い、教師はそれを止める。そして、読み上げを中断した女生徒に、続けるように言うと、意地悪な男子生徒が、「何か臭いんですけど」と言い、全員が笑う(2枚目の写真) 。
  
  

授業が終わってから、1人残されたレイは、教師から 「聞いたところでは、裁判所はあなたの義父の殺人未遂の告発について審理中だそうよ。あなたは、どう思う? お母さんは、適応できてる?」と訊かれる。レイは、じっと教師の顔を見つめるだけ。「あなたの お兄さんは? 大丈夫?」。反応がほとんどないレイに、教師は、「あなたの出席状況を報告しないといけないの」と優しく言う。レイは、すぐに、「ネイサンは元気です。僕たち みんな。ありがとう」と返事する。教師は、用事が済んだから帰ろうとするレイに向かって、「学校の特別助成金が 少しは役に立つかも」と言ってくれる。「私服の日のために 服なんかを買うとか」(2枚目の写真)〔顔を見て分かるように、この映画の中で一番の善人〕
  
  

助成金をもらったレイは、嬉しそうにスーパーの中でカートを転がす。中に入れたのは、お菓子の袋。そのあとで手に取ったのは、「私服の日」のための、大好きな星の絵の入ったシャツ(1枚目の写真)。レイは、そのままカートと一緒に嬉しそうに走り(2枚目の写真)、最後には、走っているカートにつかまって乗る。
  
  

家に戻ったレイは、居間で、兄と一緒にTVを見ている。母が、なかなか来ないので、「ママ、大丈夫?」と声をかける。何をやってもダメな母親は、「ちょっと再加熱し過ぎちゃった」と言って、焦げたフライドポテトの入った皿を持ってくる。レイは、「構わないよ」と言うと、それにケチャップをかけ、フランス語とイタリア語がミックスした 「ボン・アペティート〔Bon appetito〕」と言って陽気に食べる。兄は見向きもしない。TVでは、少年が奇妙なダンスをしている。それを見たレイは、「あの子、絶対CGだ。あんな動きムリだよ」と言う。兄が初めて口をきく。「ロボットかもな」。「そうだね」(2枚目の写真)「裁判所をバラバラにする精神病のロボットボーイみたいだ」。
  
  

そして、現在。弁護団は レイを精神科医のところに連れて来る(1枚目の写真)。そこに、気の良さそうな医者が現われ、自分の部屋に来るよう、レイに言う。レイは辛そうな様子で部屋に入って行く。「ラファエル、なぜここにいるのか知ってる?」。「僕が、裁判に耐えられるか 診るため」。「それなら、身を守ることができるな」(2枚目の写真)。そして、レイが 自分の後ろにあるパソコンの壁紙を見ているので、「あの中で迷子に… 宇宙… 心のようなもの。不可知の存在」と言う。レイは、珍しく積極的に話す。「それ、“創造の柱” ですね」(3枚目の写真)〔へび座の星雲M16 「わし星雲」の中心部にある柱状の形をしたガスの塊〕。「わお、素晴らしい。宇宙が好きなんだね?」。「天文学 好きです」。
  
  
  

ここから、精神科医としての質問が始まる。「そうか。学校は恋しい?」。「少し」。「喧嘩したことは?」。「あんまり。えーと、一度だけ」。「また、どうして?」。急に答えなくなる。「勝った?」。「中断… 停学に」。「何か話したい?」。「テントウムシを潰した。殺しちゃった」。「停学になったから?」。「ううん」。悲しそうな顔だ(1枚目の写真)。「自分は、どんなだと思う? 1から10の段階で、1は立派、10は最悪」。「9かな?」。「なぜ、自分がそんなに悪いと感じるんだい?」。「論外だから。何も悪いことなどしなかった〔テントウムシのこと〕。なのに殺した」。「誰が 10だと感じる?」。「兄さん、クリスティー〔異父弟〕、セリーナ〔異父妹〕、ママ」。「それに、スコットだね」。ここで、急にスコット殺しの直前の記憶が蘇って消える。「何があった?」。再び短い記憶。「君も、10だと感じるかい?」。レイは首を横に振る。「じゃあ、9?」。首を振り続ける。「8?」。まだ、首を振り続ける。「分かった。もういい。君がそんな風に感じた時の対策を教えてあげよう。深呼吸だ。いいね?」。診察が終わり、ケリーとピートが診察室に呼ばれる。「ラファエルには PTSD〔心的外傷後ストレス障害〕の症状があります。彼は殺人について 思い出し始めたところです。断片を。でも、対処する準備ができていません」。ケリーが、「対処? どのように?」と訊く。「ラファエルは殺人の責任を受け入れることを拒否しています」(2枚目の写真)「むしろ、それは故人の過ちだったと」。ピートが、「あなたは彼をどう思いますか?」と訊くと、「彼には 精神病質の特徴はありません。彼は 明確な共感能力と感受性を有しています」と答える。「彼はどのように見えるでしょうか?」との質問には、「彼は頭が良く、理路整然ですが、内気です。打ち解けがたい。そこに、裁判という圧力が…」と返事し、ケリーが、「そう、無慈悲で、回りくどい…」と、法廷を批判する。そうした話は、良し悪しは別として、待合室に他の2人と一緒に待っているレイにもはっきりと聞こえてくる(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、映画は、過去に戻る。最も辛い過去に。レイがキッチンで2人の小さな子供用にシリアルの用意をしていると、勝手口のドアが開いて、何と、ロクデナシのスコットが入って来る。殺人未遂の現行犯で逮捕されたのに、異例の早さだ。ロクデナシは、冷蔵庫から牛乳の入った大きなポリ瓶を出すと、そのままゴクゴクと飲む(1枚目の写真)。レイは、台の上に置かれたポリ瓶の飲み口をナプキンできれいに拭くと、2人のシリアルに注ぐ。それを見ていたロクデナシは、「俺を見て驚いたみたいだな。裁判所は お前の兄なんか信じず、無罪だ」と言う。レイは、もちろん、何を言われても無視して作業を続ける。「レイ、これは俺の家だ。お前ら兄弟が、俺を追い払う方法は、これでなくなった」(2枚目の写真)。それでも、レイは何も言おうとしないので、ロクデナシは 「これは、子供らのためか?」と言って、シリアル入りのボウルを持って居間に入って行くと、「よお、チビちゃん… なんて可愛いんだ。寂しかったぞ」と甘やかす。レイたちに対する態度とは大違いだ。そこに兄が下りて来て、「立ち去れ。消え失せろ!」と怒鳴る。「俺は どこにも行かんぞ」。「失せろ! 消えろ!」。そんな兄をレイは玄関に連れて行く。兄は、「そんな! あり得ない!」と、泣き崩れる(3枚目の写真)。
  
  
  

ケリーは、事務所に戻ると、ピートに、「ヴェロニカがネイサンに言ったことが原因で、スコットは仕事を辞めた。でもね… それには、ネイサンとヴェロニカの言葉しかないの。そして、私は彼の母親を証言台には立たせない」と話す(1枚目の写真)。そして、ピートが手に持っている写真を指して、「そして、彼は…」と言いかけると、ピートが、「ひどいな。可哀想な奴は とんでもない状態だった」と言う(2枚目の写真)。「彼の弁護団は、きっとそれを見せる。切り札だ」。「私たちも… 多分…」。これだけ言うと、ケリーは、本気になって話し始める。「レイは… 戸口で大好きな兄を見て、その状況で、命の切迫した危険を告げられ、そこに以前のトラウマ体験が加わり、結果として…」。ケリーは、パソコンを見ながら、ある論文を引き合いに出す。それは、「極度の暴力への恐怖がある状況下で、制御の欠如による部分的防御〔被告を完全に免責しない防御〕の適用を検討する際には、注意すべき2つの追加要因がある」と書かれた文章の、2つ目の項目で、ケリーはそれを読み上げる。「第二に、極度の暴力への恐怖は、被告または他の特定された人物に対する暴力である必要がある」(3枚目の写真)。これだけでは、分りにくいので、パソコンにあるその先の文章を訳すと、「従って、例えば、被告は、犠牲者が子供に対して極度の暴力を振るうことを恐れている可能性がある。犠牲者が極度の暴力を振るう相手が特定できない状況下での 被告の一般的な恐れだけでは不十分である」となる。この、法律用語ばかりの難しい文章で、重要な言葉は、最初の文章にあった制御の欠如(loss of control)という言葉であろう。要は、「極度の暴力への恐怖が、レイを制御の欠如の状態に陥らせた」という主張だ。ケリーは、この言葉を、弁護の要に据える。
  
  
  

買物から戻ってきた3人を加えて ミーティングが始まる。ケリーは、まず 「あなたは弁護団と一緒に座る、それとも一人でいる?」と、レイに尋ねる。「あなたと。でも、ネイサンはどうなるの?」。「彼の弁護団が面倒を見るでしょう。あなたは、自分だけに集中しなくちゃいけないの。他の誰かでなく。とても重要なことよ」。ピートが口を挟む。「君は、法廷に出るんだ。君をドラキュラの息子みたいに見ている人たちと一緒に。覚悟しないと」(1枚目の写真)。「うん。してる」。ケリー:「検察は、殺人を強く主張するでしょう」。「どう違うの?」(2枚目の写真)。「故殺と、殺人で? 恐らく、刑務所で10年以上」。そして、レイに10年の刑務所暮らしをさせないために、ケリーは、「私は戦うわ。あなたができるだけ多くの人生が送れるよう」と言うhttps://corporatewatch.org/ によれば、英国には、3種類の若者の投獄形式(youth imprisonment)があり、①10~14歳の子供は「保護児童ホーム(Secure Children’s Homes)」、②15~21歳の若者は「少年犯罪者施設(Young Offender Institution)」、③17歳以下の子供は「保護訓練センター(Secure Training Centres)」と書かれている。12歳のレイは①と③が重なるが、両者の内容を比べると、③のように思われるが判然としない〕。そして、そのための要件として、「あなたには強くなって欲しい。私のために。いいわね?」と言った後で、だから、「制御の欠如(loss of control)」で行くわ。この弁護で一番の助けは、ネイサンが、あの夜、彼があなたの部屋に入って来たと証言すること。彼が、命に差し迫った恐怖を訴えたので、あなたは、彼と一緒に階段を下りるしか選択肢がないと感じた」。「そうだったの?」。「そうだよ」。「そしたら、あなたは… コントロールできなくなった(lost control)のね?」〔子供が「制御の欠如」という言葉を使うのは不自然なので、訳の表現を変えた〕。レイは頷く。「それでいいの」(3枚目の写真)。
  
  
  

過去の短い場面。先ほどの日の夜、レイがTVゲームで遊んでいると、母とロクデナシの口論が聞こえてくる〔すごく狭い場所〕。「スコット、2人とも、どこかに住まわせないと」。「あいつらは、俺を放り出そうとしたんだぞ!」〔自分が、ネイサンを斧で殺そうとしたのに!〕。「私の息子たちよ!」〔なぜ、殺人未遂のことを口にしないのか?〕。「今頃、ネイサンは屋根裏で 俺を笑ってるぞ! 無事でいたけりゃ、そこから出ない方がいい! 俺が安らげるのは、あのクソ小屋だけだ!」。翌朝、レイは、こっそり小屋に行ってみる。南京錠が掛かっていたので(2枚目の写真)、鍵を止めている金具自体を外して中に入る。すると、棚の一番上には、警察から返却された斧(3枚目の写真)〔「証拠物件〕という紙が貼られた袋に入っている〕が隠してあった。レイは、また使うつもりなんだと恐れおののく。
  
  
  

陪審員裁判の初日。ケリーは、レイに白いYシャツを着せ、ピートと3人で弁護人席に座る。検事が着席し、レイの斜め横のガラスで仕切られた場所に、警官2人に連れられた兄が入ってくる」〔このシーンが一番理解できない。そもそも、なぜ兄がいるのか? なぜ、兄には弁護人が付いていないのか?(兄に関する法廷論争の場面は一度もない。しかし、両者は同じ裁判を受けているので、兄の場面はすべてカットしたのか? 陪審員は2人とも同じだし、判決も同時。だから、戸惑ってしまう)〕。「起立」。裁判長が入廷して着席。全員が座る。審議の前に、裁判長は、「この裁判が正式に開始される前に、第39条の報道機関の制限を解除するよう要請された」と告げる。さっそく、ケリーが 「裁判長」と抗議に立ち上がるが、裁判長は 「賛成はやむを得ない。攻撃の甚だしい残忍性を知らしめることは、 公共の利益に合致すると判断した」と、抗議を却下する(1枚目の写真)。ケリーは、さらに 「しかし、その場合、名前の公表は 彼の将来ついて回ります」と抗議するが、「決定事項です、スティーブンスさん」と相手にされない〔日本では、2021年2月から少年法を改正し、18・19歳の未成年の起訴後の実名報道が可能となったが、12歳で実名報道とは、イングランドは何と残酷な国であろう。スコットランドは日本と同じなのに〕。陪審員が呼ばれる〔12名〕。レイと兄は、立つよう命じられ、レイに対して、「ラファエル・ジャック・マッカリン、あなたはスコット・アダム・ジェイムソンの殺害で告発され、無罪を主張しています」と、主張が紹介され、座るのが許可される。兄についても同じ。そして、いよいよ検事の冒頭陳述が始まる。「これは 無防備な睡眠中の男に対する恐ろしく冷酷な攻撃でしたが、両被告は部分的防御を主張しています。制御の欠如だったと。兄弟たちは、彼らの命に対する差し迫った恐怖から行動したので、殺人ではなく故殺だと主張しています」(2枚目の写真)「私どもは、これが怒りから生まれた冷血な殺人であっことを暴きます。純粋に計画的な復讐です。ラファエルの部屋で何が話し合われたのか、尋ねなければなりません。彼らが階段を下り、義父を凶暴に殺す前に、ドアの背後で何があったのでしょう? 殺人、あるいは、故殺? 復讐? あるいは、制御の欠如?」(3枚目の写真)。
  
  
  

その会話を受けて、過去に戻る。私服の日、学校に来たレイは、よりによって、古臭いチョッキを着ている〔なぜ、スーパーで買った 星の絵の入ったシャツを着ないのだろう?〕。それを見た生徒達からは、「あの服 見ろよ! びっくりだ」。「おじいちゃんのチョッキね」。「みっともないな」。「なんで制服なんか着てる?」などの声が上がるが、レイを傷付けたのは、「何だ、この臭い?」という一言(1枚目の写真)。「何て言った?」と言い、相手に殴りかかる。そして、結局は、教育室に呼ばれることに。そこには、ロクデナシNo.2の児童サービスの女性もいる(2枚目の写真)。母と義父がなかなか現れないので、この女性は、「家庭訪問がまだ2つあるの。もう待てないわ」と言い出す。すると、ようやくスコットと母がやって来る。そして、ロクデナシNo.1のスコットは、座るや否や、「何でケンカした?」とレイに言う。レイの担任教師は、「ジェイムソンさん。あなたが戻ったことによるレイへの影響を心配して、学校は、複数の機関に集まってもらいました」と説明する。さらに、「ご存知のように、児童サービスは、子供たちが助けを必要としているとは考えていません」と、児童サービスを批判する。それを聞いたロクデナシNo.2は、「そうですね。私どもは、ジェイムソンさんが戻られたことで状況は著しく改善し、特に幼い子供たちが とても落ち着いたように見えます」と答える。レイのことで呼ばれているのに、それについては全く触れようとしない。本当に役立たずで、職務を放棄していると言って良い。スコットは 「彼はケンカした。それだけですよ」と、事を大きくしないよう割り込む。教師は 「ナサニエル〔兄〕は まだ一緒に暮らしてるんですね、ヴェロニカ?」と母に訊く。しかし、母より先に答えたのはスコット。「今や問題ゼロ。法廷がそう言った、じゃなけりゃ、俺は ここにいないだろ」と、再度割り込む。教師は 「レイに聞いてみたいと思います」と言い 「レイ、今、家では、すべてが順調なの?」と優しく訊くが、レイはスコットを前にしては何も言えない(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、再び、裁判の初日。陪審員には、スコットが血だらけになって殺された時の写真が配布されている。そして、検死の担当者が説明する。「背中に57の刺し傷があり、深さが異なります。右上部の胸に12の長く深い傷も、1つは右肺に達しています」(1枚目の写真)「頭を斬首しようと長時間試みた結果、すべての動脈が切断され、皮膚のごく一部だけが頭を体に接続した状態になりました。手の平に多くの刺し傷があり、すべて防御的な怪我です」(2枚目の写真)。あまりの残虐な写真に、1人の女性陪審員が、気持ちが悪くなって席を外す。裁判の休憩時間中、ケリーが建物から外に出てタバコを吸っていると、そこに、ピートに続いてレイが姿を見せ、さっそく、待ち構えていた報道陣から 「言っておきたいこと、あるかい?」とレイに質問が飛び、ピートはすぐにレイを中に戻す。ケリーの控室に入ったレイは、サンドイッチには手を付けず、「もう、みんなが知ってる」と悲しむ(3枚目の写真)。ケリーには、「食べて」としか言えない。
  
  
  

ここで、また、過去の場面。スコットが無罪放免されたことで、兄は完全なうつ病になってしまった。レイが屋根裏部屋を訪れても、じっと座っているだけ。レイが 「いつもの兄さんは、どこ行ったの?」と訊いても、「さあな」と答えるだけ。レイは 「戻って来てよ!!」と何度も大声で迫るが、反応は全くない(1枚目の写真)。あきらめたレイが、狭い “ねぐら” で寝ていると、スコットの怒鳴り声で目が覚める。「この有様を見ろ! 見ろと 言ってるんだ! なぜ俺は、こんな懸命に働いてるんだ?!」(2枚目の写真)。母が 「怒鳴らないで」と言うと、「怒鳴るな? よく そんなコト言えるな! ここは最悪だ! まだ奴らがのさばってる! 奴らは、何もせんで、俺をおちょくってやがる!」。レイは、寝床から起き上がり、こっそり様子を見に行く。母:「ここにいなくても いいじゃない」。「今、何て言った?! いいか、二度とそんな口きくんじゃない。分かったか?! 俺の家だぞ! 何もかも俺次第だ! お前は、何もせん くそ女だ!」(3枚目の写真)〔スコットが母に暴力を振るう、映画の中では唯一のシーン〕。レイは見ていられなくなって、ドアを閉める。そのあと、スコットは、攻撃を兄に向ける。「そして、貴様だ… 降りて来い、役立たずのゴミ野郎! 今すぐ、降りろ!」。兄が降りてこないので、スコットが登って行く音が聞こえる。
  
  
  

そして、休憩後の法廷。検察側の精神科医への証人尋問。検事:「当時、ナサニエルが 抑うつ状態にあったことは、承知していますが、だからといって酌量できる訳ではありません」(1枚目の写真)「ラファエルはどうですか? 博士、あなたは報告書に書いておられる。彼は健全な精神を持ち、年の割りに聡明な少年で、兄と同じように 身を守ることができると」。これに対し、博士は 「そうですが、違います」と答える。「ついて行けません。どちらですか?」。「子供の心は、大人のように 完全には形成されてはいません。成長につれ、様々な側面が 様々な速度で発達し続けます」。「だが、ラファエルが裁判に耐えられると判断された。彼は自分の責任を理解していますか?」。「はい、理解しています」。「そして、彼には 明らかな精神医学上または精神病の問題がないと?」。「そうです」。「彼は明快で利口な子供で、答弁可能な状態なのですね?」。「はい」。これで検察側の尋問は終わり。次に、ケリーが立つ。「キートン博士、子供が世界をどのように体験しているか説明して頂けますか?」。「子供の外界の見方は、衝動、本能、攻撃に反応する脳の感覚的、感情的な部分から来ています。それに対し、脳のより合理的で意思決定の部分である前頭前野は、適切な判断で状況に対応しますが、文字通り、私たちが大人になるまで完全には成長しません」(2枚目の写真)「それ〔前頭前野〕はまた、行動の長期にわたる帰結を理解することで、未来に取り組んでいます。従って、理解する能力には 本源的な不均衡があります」。「それでは、以前経験した切迫した暴力の脅威が、また起きるかもしれないという状況に対応して、あのような殺人の夜、子供の心の中でどのようなことが起きていたであろうかについて、話して下さいますか」(3枚目の写真)。「12、13、14歳の子供の脳は、感情の面で打ちのめされ、反応を余儀なくされていたでしょう」。これで、弁護側の尋問が終わる。この博士は、実にいい人で、レイにとって有利になる証言をしてくれた。
  
  
  

ここで、レイが以前、博士に話したテントウムシが実写の形で紹介される。森の中で、枝から吊るした1本のロープに結びつけた木の枝に座り、嬉しそうに遊ぶレイ(1枚目の写真)。そのあと、レイは森の中を歩いて行く。すると、ズボンを這い上がって来る小さなテントウムシに気付き、それを指に乗せる。そして、じっと見る(2枚目の写真)。そのあと、親指をテントウムシに近づけ(3枚目に写真)、「テントウムシを潰した。殺しちゃった」と 博士に話したことが起きる。
  
  
  

この短い、博士に対するオマージュの後、検察側の証人尋問は、ロクデナシNo.2へ。検事:「ジェイムソン氏の釈放と実家への帰宅後、ラファエルは、セリーナとクリスティーと同様、もはや “助けを必要とする子供” とは見なされないという組織的決定がされた。そうですか?」。「はい。その通りです」。「それは、なぜですか、ディレイニーさん?」。「子供たちは 父親を取り戻し、とても幸せそうに見えました」(1枚目の写真)〔恥ずかしげもなく、レイを完全に無視した証言をしている〕。「家族として、とても安定していました」(2枚目の写真)。そして、ケリーの攻勢が始まる。「“助けを必要とする子供” は、健康もしくは発育に対する重大もしくは更なる危害 を防ぐために地方自治体の支援を必要とする18歳未満の子供、と法律に定義されています。あなたは、この定義が “児童サービス” による支援を必要とする子供に該当していると認識していますか?」。「はい。そうです。はい」。ここで、ケリーは、定義の一部をくり返す。「健康もしくは発育に対する重大もしくは更なる危害 を防ぐため。それにもかかわらず、レイが、兄に対する恐ろしい事件を目撃した後、まさにこの法廷で、殺人罪で告発されたジェイムソン氏が、その事件で使われた斧と一緒に帰宅したことをもって、あなた方は ラファレルはもはや “支援を必要とする子供” ではないと結論付けた。そうですか、デラニーさん?」(3枚目の写真)。「はい」。これで、ディレイニーの信頼性は地に落ちた。
  
  
  

次の証人尋問は、レイの担任教師。検事は、「記録によれば、彼は、同級生に悪意ある謂(いわ)れのない攻撃をしたとか」と、レイの暴力性を追及する。「ジェイムソン氏が戻ってからです」(1枚目の写真)。検事の尋問はさらに続くが、迫力に欠ける。そして、ケリーにバトンタッチ。「ラファエルはどんな生徒でしたか?」。「彼は知識欲が旺盛でした」。「学校は、“幼い子供たちと母親の両方の世話をする人” としてのラファエルの家庭での役割を知っていましたか?」。「ある程度ですが」。「ラファエルは学校の特別助成金を使って、自分の服だけでなく、故人の生物学的子供である異父弟妹の服を買いませんでしたか?」〔以前、スーパーで買ったのは、異父弟用のシャツ?〕。「はい、その通りです」。「そして、この学校での謂れなき攻撃… それはレイの普段の性格とは異なるものでしたか?」。「はい。レイは、優しくて、傷つきやすく…」(2枚目の写真)。優しい教師は ここで言葉を止め(2枚目の写真)、「私は そう思います。今でも」と、さらにレイを称えた上で、「かわいそう」と心情を吐露する(3枚目の写真)。
  
  
  

教師に対する尋問が終わった時、1枚の紙が、法廷関係者からピートに渡される。それを見たピートは、小声で、「ケリー、取り乱さないで… ネイサンは証言しない」と伝える。それを耳にしたレイは、後ろのガラスで仕切られた場所にいる兄に向かって、「ネイサン、お願い」と声をかけるが(1枚目の写真)、兄はうつむいたままだし、ケリーからは 前を向くよう強く指示される。そして、レイの頭を過ぎる、犯行直前の兄の横顔〔兄も、スコットと同じくらい精神に異常を来している〕。休憩時間になり、ケリーはレイを控室に連れて行くと、「何のつもり?」と、先ほどの行為を咎める。「彼には、僕が必要だよ」。「違うわ。あなたには、あなたが必要なの。これまで以上に」(2枚目の写真)。ピートは、「ネイサンの弁護人は、彼の警察の写真〔義父の斧のこと?〕も 陪審員に見せない」と、追加報告する。ケリーは、「でも、それは彼らの切り札でしょ。なぜ?」と困惑する。切り札を幾つも失ったケリーは、レイに必死で訴える。「レイ、よく聞いて。あなたには、いつか、あなたらしい人生を送って欲しい。そして、その “人生” は、次が どうなるかで決まるの。あなたにとって、ベストの可能性は、証言台に立つことよ。私はアドバイスしかできない。決めるのは、あなた」(3枚目の写真)。「分かった。やるよ」。「ラムスデン〔検事〕は あなたを攻撃するでしょう。手加減などしないわ。彼の目をじっと見なさい。落ち着いて。そして、答える前に慎重に考えなさい。事件の直前の状況について、あなたが話したこと 覚えてる?」。「それって… コントロールできなくなった?」。「そうよ」。
  
  
  

そして、いよいよレイ本人が、証言台に立つ(1枚目の写真)。検事:「ラファエル、あなたは殺人罪で裁判を受けています。分かっていますか?」。レイは、はっきりとした声で答える。「はい。分かっています」。「あなたは、この事件で、兄と同等の役割を果たしましたか?」。「はい」。「あなたは、男を殺したことを認めますか?」。「はい、認めます」。「この男が恐ろしかったですか?」。「はい」。「スコット・ジェイムソンが無罪になった後、あなたは復讐を望みましたか?」。「いいえ」。「しかし、何かすべきだと思いましたか?」。レイは肩をすくめる。「記録のため、発言して下さい」。「分かりません」。「あの夜、ナサニエルがあなたの部屋に来た時、どんな様子でしたか?」。レイは兄の方を見る(3枚目の写真)。
  
  
  

その時の記憶が蘇る。兄の様子は、明らかに異常だった。彼は、レイに向かって恐れたように口でまくし立てる。「ママは言った… しなければならないと… 鍵をかけないといけないと… でないと、スコットが行くって…」(1枚目の写真)。「落ち着いて」。「奴は小屋に行って、斧をまた持ち出す」。「落ち着いてよ」(2枚目の写真)。「ドアに鍵をかけないと」。「ネイサン、落ち着いて」。「でないと、俺たち もう終わりだ」。
  
  

レイが考え込んでしまったので、検事は 「記録のため、発言して下さい」と促す。「彼は スコットがママを脅したと言いました」(1枚目の写真)。検事は、この証言を過少評価する。「どこでも、よくあることですな。それに、彼女は証言していませんから、あなたの言葉しかありませんね。そんなことで、ジェイムソン氏を殺すとは、少し極端ではありませんか?」。この時、証言台にも立たない無責任な母の顔が一瞬映る(2枚目の写真)。「分かりません」。「あなたの部屋で、あなたとネイサンは、どうするか話し合いましたか?」(3枚目の写真)。
  
  
  

その時の場面。2人は、屋根裏部屋に登る鉄梯子の裏にあるレイの部屋から出ると、鉄梯子の前を横切る(1枚目の写真)。ここで、現在の証言に変わり、レイが 「僕たちは、下の階に行き、ナイフを手に入れました」と言う。「誰が決めたのです?」。再び過去。2人はキッチンにいて、兄の手には包丁が握られている(2枚目の写真)。そして、現在。「予定外でした」。「あなたの兄は、我々が知る限り、混乱状態でした」(3枚目の写真)「正常だったのは、誰ですか?」。ここで、ケリーが、誘導尋問だと抗議し、検事は質問内容を変える。「そして、あなたたちは階下に行き、故人が丸まって ぐっすり眠っているのを見つけた。脅威など全くなく」。
  
  
  

ここからが、過去の殺害直前のシーン。2人はスコットの枕元に立つ(1枚目の写真)。現在。「ええ… ありません」。「その時、脅威はなかった。でも、ナイフを突き刺したのですね? 誰が攻撃を主導しましたか?」。レイは、つい兄を見てしまう。そして、過去。兄の手に固く握られた包丁が映り(2枚目の写真)、レイは、兄の顔を心配そうに見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

「僕たち… 彼を襲いました」。「彼は目を覚ましましたか? 彼は腕に多くの防御的な傷を負っていた」。「思い出せません。それは… 偶然です」。「男は70回以上刺されている。彼の頭は斬首に近かった。それでも、思い出せないのですか? この大虐殺は、どういうわけか、偶然起きたのですか? スコット・ジェイムソンは黙って死んだのですか?」。「思い出せません」。「彼を殺すつもりでしたか? ラファエル・マッカリン、その夜、スコット・ジェイムソンは殺されたんですよ」。「コントロールできなくなりました」(1枚目の写真)〔泣いている〕。「それは、いつからですか?」。「襲撃の前も、その最中も、コントロールできませんでした」。「これで終わります」。兄の映像が一瞬入り(2枚目の写真)、レイは涙を拭う(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、時系列に沿った最後の過去、殺人直後のシーンだ。2人は玄関で靴を履くと、夜明けが近い森へと出て行く。幼児用の遊具が複数置いてあるので、スコットが自分の子供たちには如何に甘かったかが分かる。レイは、森の中で 気持ちが悪くなって吐く(1枚目の写真)。2人が近くの教会に着いた頃には、辺りは明るくなっていた。中に入って行ったレイは、祭壇近くの蝋燭台の前に行くと、消えている蝋燭に細い付け木で火を点ける(2枚目の写真)。音がしたので振り返ると、兄が、早朝来た信者か教会関係者に、「どうしたんだ?」と訊かれ、「俺と弟で、人を殺した」と話しているのが聞こえる(3枚目の写真)。
  
  
  

検事の陪審員向けの最終陳述が始まる。「私たちは、兄弟の1人、ラファエルから話を聞いただけです。彼の年齢に影響されて同情なさらないで下さい。皆さん、この少年は冷血な殺人者です。スコット・ジェイムソンは虐殺されました… 眠っていた時に。ラファエル・マッカリンは、その証言台で、この野蛮で悪魔的な行為における彼の役割を認めました。この少年には潜在的素質がありました。それは明白です。そして、ナサニエルと同様の責任があります。彼らは 2人の幼い子供たちの愛情深く思いやりのある父親を 容赦なく殺害することを計画したのです。これらは あなた方が考慮すべき唯一の事実です」(1枚目の写真)。最後が、ケリーの陪審員向けの最終陳述。「私の学識ある友人〔検事のこと〕は、責任という言葉を使います。しかし、今日この部屋で、誰が、ラファエルのために責任を取りましたか? 彼の両親? 証言しようとしなかった 成人の兄? 警察〔スコットのネイサンに対する殺人未遂を有罪にできなかった〕? この法廷〔スコットのネイサンに対する殺人未遂を無罪にした〕?」(2枚目の写真)「立ち寄りはしたが、結果的に、彼と彼の家族の保護に失敗した児童サービス?」〔優しい教師については言及しない〕「ここでは、全員が有罪です。しかし、ここは問題解決の場ではありません。この舞台、この法廷は、勝ち負けを決めるための場所です。有罪または無罪。“合理的な疑い” を超えて」〔”合理的な疑い” が残る場合は,有罪にしてはいけない=検察官の証明の手続きに,何らかの疑問点が残る場合は,有罪とする根拠がなくなる〕。二者択一。戦うか逃げるか。ニュアンス〔微妙な意味合い〕の余地はありません。混沌の中にあって、新たな人生を送る余地も。そうでないと言うなら、制御の欠如とは何ですか? 崖っぷちに立たされた少年が、自身が受けると怖れていたのと同じ 暴力的な激しい怒りで反撃したのです」(3枚目の写真)。
  
  
  

陪審員が評議している間、ケリーもレイも法廷の外で待たされる。レイが、法廷のドアの前で座っていると、イスの横の脇テーブルの上にいくつか新聞が置いてある(1枚目の写真)。レイは、一番上の新聞の一面の見出し「笑顔の小児殺人者の凶暴な攻撃」を見て、その新聞を取り上げる。そこには、自分の笑顔が1面全体に掲載されている(2枚目の写真)。写真の下には、小さく、「継父の残忍な殺人で兄と裁判にかけられた12歳」と書かれている。新聞をゴミ箱に投げ捨てたレイが 窓から下を見下ろすと、ケリーが不安そうに頭を抱えている(3枚目の写真)。
  
  
  

陪審員が席に着き、あとは判決が言い渡されるだけとなる。廷内に入ったレイに、ケリーは、「レイ、あなた、私に一緒にいて欲しい?」と訊く。レイは、先ほど見た姿が心配になり、「ケリーこそ大丈夫?」と訊き返す(1枚目の写真)。自分が見られていたことを知らないケリーは、「ラファエル・マッカリン、今 私に訊くにしては変な質問ね」と訝(いぶか)る。そして、判決の言い渡し。「被告は立ってもらえますか?」。2人が立ち上がる。「陪審員の皆さん、ナサニエル・マッカリンに関して、少なくとも9人が同意した評決に達しましたか?」〔アメリカは全員の一致が必要。日本は過半数〕。陪審員長が、「はい」と答える。「殺人罪について、被告をどう判決しますか?」(2枚目の写真)。「有罪」。「ラファエル・マッカリンに関して、少なくとも9人が同意した評決に達しましたか?」。「はい」。「殺人罪について、被告をどう判決しますか?」。「無罪」(3枚目の写真)。これで、ケリーはホッとする。刑務所行きは免れたからだ。「“制御の欠如による故殺罪” について、被告をどう判決しますか?」。「有罪」。レイと兄は、互いに顔を見合わせる。「起立」。裁判長が出て行く。レイは、「ネイサン」と声をかけるが(4枚目の写真)、兄は何も言わずに出て行く。
  
  
  
  

母が、レイの前に現れる。レイは、「ママ、クリスティーとセリーナはどう? 誰も教えてくれないんだ」と訊く(1枚目の写真)。「もう一緒じゃないわ。あの子たち、持ってかれてしまった」〔法廷で不手際ぶりが糾弾された児童サービスは、この女性が母親として不適格だとようやく気付き、さっさと幼児2人を取り上げた〕。心優しいレイは、「ママ、ごめんね。僕、ママと兄さんを守ろうと思ってやったんだ。分かって、お願い。ごめんね、ごめんね」と泣きながら謝る。しかし、自分の落ち度や無作為を何一つ認識・反省していない母は、「みんなが一緒じゃなくちゃ、ダメなのよ、レイ」と、レイを責める(3枚目の写真)〔レイ役のビリー・バラットの名演〕。母は、レイの「ごめんなさい」の言葉に答えることなく去って行く。事件の半分の責任は彼女にあるというのに。
  
  
  

レイは、警官2名に伴われ、保護訓練センター(Secure Training Centres)に連れて行かれる(1枚目の写真)。電子錠のゲート、鋼鉄製のドア、内部のドア2ヶ所もすべて電子式。きわめて厳重だ。レイは、危険物を持っていないか検査され、体重計に乗り〔40kg〕、身長を測る〔155cm〕。電子ロック付きの個室は、小さな机とベッドがあり、それなりに明るい(2枚目の写真)。レイは、ベッドに座り、鉄格子の入った すりガラスの窓を見つめる(3枚目の写真)。これから何年もここで暮らさなくてはならないのだ。
  
  
  

お絵描きの時間、レイは、昔から大好きだった宇宙の絵を描こうとする(1枚目の写真)。そして、完成した絵を窓の下の壁に貼る(2枚目の写真)。それを見た指導員は、「お、クールだな、兄弟」と褒める(3枚目の写真)。「俺たちが、その中心にいるなんて、すごいことだよな」。レイは意外なことを言い出す。「僕らの太陽系じゃないんだ。僕たちのと瓜二つの別の宇宙が幾つもあるという理論 〔並行宇宙〕 があるんだ。その、それぞれに、違う “僕” がいて、僕がしたかもしれないことをしてるんだ」。指導員は、初めて聞いた理論に感心する。
  
  
  

そして、その日の夜、レイは夢を見る〔先程の話の直後なので、この場面は “過去” のスコットではなく、“並行宇宙” のスコットかもしれない〕。川で義父が釣りをしているところに、レイが近づいて行く。義父は、「じゃりん子が、どうした?」と声をかける。そして、レイが黙っていると、横のバッグからコーラの缶を取り出し、「(缶は)噛みつきゃせん」と言ってレイに差し出す。レイは受け取って飲む(1枚目の写真)。義父は 「いつ学校に戻る?」と訊く。「明日」。「お前の頭には、いい脳ミソが詰まっとる。無駄にするな。もうケンカはやめとけ」。そして、自分の脇にあるボックスの上の物をどけると、「座っていいぞ」と言うが、レイはとっくにいなくなっている〔どう見ても、”並行宇宙” の可能性の方が高い〕。そして、レイは目が覚める。目を覚ましたレイは、自分が義父をナイフで何度も何度も刺したことをはっきりと思い出し(2枚目の写真)〔それまで封じ込めていた記憶が開放された〕、そのあまりの非道ぶりに体が震え(3枚目の写真)、ベッドの脇にあったベッドサイドランプを薙ぎ払う。それでも、義父を何度も刺す場面が頭を過ぎり、暴れながら 喚き、泣き叫ぶ。
  
  
  

異常に気付いた指導員が飛び込んできて、電気を点け、「レイ、どうした? 落ち着け」と声をかける(1・2枚目の写真)。それでも泣きながら暴れるレイに対し、指導員は、「レイ、君は、ここにいる。君の体の中に。ここは、君の部屋の中だ。分かるか?」と、優しく宥める。これが功を奏したのか、暴れるのが止まる。「君は、安全だ」。それでも泣くのは止まらない(3枚目の写真)〔素晴らしい熱演〕。しばらくして、ようやくいつものレイに戻る。「どうしたんだ? 大丈夫か?」。「大丈夫。ありがとう」。「よかった」。
  
  
  

時間の経過は不明だが、レイと指導員が施設内の事務所に行き、レイが「切手を1枚」と、お金を渡し(1枚目の写真)、代わりに切手を受け取る。レイは、その切手を、「ナサニエル・マッカリン様」と書いた封筒に貼る(2枚目の写真)。その下に書かれた「H.M.P. Thameside」は、ロンドンにあるカテゴリーBの刑務所。
  
  

施設に慣れたレイは、指導員と一緒に、暴力的ではないTVゲームを楽しんでいる(1枚目の写真)。レイは、 真面目な顔に戻ると、「僕、あんなことをした自分が許せない」と言う(2枚目の写真)。指導員は、「その子は、別の宇宙にいるんだ、兄弟。いいな?」と慰める〔これは、先にレイから教わった “並行宇宙”〕。映画の最後に、「イングランドとウェールズの刑事責任の最低年齢は10歳」「1995年、国連の子どもの権利委員会は、これは 英国の子どもの権利に関する義務に抵触すると述べた。それ以後も、10-14歳の7,057人の子供が、法廷で裁判にかけられた」と表示され、映画は、この2ヶ国の制度が厳し過ぎることを批判して終わる 。
  
  

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  イギリス の先頭に戻る          2010年代後半 の先頭に戻る